「紅い牢獄」


頬に落ちてきた雫の冷たい刺激で、ソル=バッドガイは目が覚めた。
「ここは・・・・?」
ソルは朦朧とする頭を必死に回転させ、ここがどこであるか、何故自分がここにいるのかを思い出そうとした。
意識が少しはっきりしてくると、今度は体中の痛みを感じてきた。酷いケガではないが、体中がムチで打たれたような後が沢山あった。
「ああ・・・そう言えば俺は酒場で酒を飲んでて・・・・・・。だめだ、思い出せない。隣の席の男が進める酒を一杯飲んでたらすごく眠くなってきた記憶はあるが、その後の記憶がない。・・・・してやられたというワケか・・・」
ソルは今見知らぬ場所にいた。薄暗く、湿気の多い場所だ。唯一の明かりは遥か高い場所にある天井にある鉄格子付きの窓から見える月の光だけだった。恐らく昼間は日光が直接降り注ぎ、この部屋の温度は異常なまでに上がる仕組みになっているようだ。実際床は鉄板でできていて、今のような夏期ならば鉄板が直射日光で熱されて、フライパンのようになるだろう。
「オレも明日の昼間にはバーベキュウか・・・。ドラゴンインストールして、ヴォルカニックヴァイパーでも出せばあんな窓など一撃で抜けれるのにな・・・」
と言ってソルは自嘲した。封炎剣は手元にはない。恐らく別の部屋に隠してあることだろう。あれがなくては炎も出せない。ヴォルカニックヴァイパーなど出せるわけもない。そしてこの手と足に着いている枷。親切設計で、つけた者の力を封印する仕組みになっている。普段はこんな枷など素手でも壊せるソルだが、力を封印されてしまえば赤子も同然だった。
「クソッ・・・。何なんだよ・・・」
思わず舌打ちをした。自分が何故こんな所に監禁されなくてはならないのか。そして見知らぬ他人が進める酒などを迂闊に飲んでしまった自分が腹立たしかった。いつもは牙を立て、常に周りを警戒していたのに、何故気が緩むなど・・・。
「アイツだ・・・。あの隣の席にいた男はアイツと似ていたせいだっ・・・。クソっ・・・。アイツと似てるヤツを見ただけで気が緩むなんて・・・オレもヤキがまわったな・・・」
その時、遠くから足音が聞こえ、ソルのいる部屋の前でとまった。
「誰だ。」
ドアがゆっくり開き、足音の正体が姿を現す。しかし逆光で顔が見えない。
しかしその服装、声には聞き覚えがあった。よく知ってる声だ。
「やっぱりてめぇか・・・。カイ=キスク・・・」
「目は覚めたみたいだね。気分はどうかな?」
現れた男は「カイ=キスク」。聖騎士団の団長だ。恐らくここも聖騎士団の地下牢獄だろう。カイは牢獄の片隅に座り込んで拘束されているソルに見下すかのような目線を向け、ゆっくりと近づく。
「はは・・・いつもの眼をしている・・・。その眼が私はキライなんだよ・・・」
そう言ってカイはソルの目の前で立ち止まり、手に持っていた剣を振りかざした。
一閃。
ソルは眼をつぶらなかった。カイが自分を殺すつもりで剣を振りかざしたわけではないことを見ぬいていたのだ。それがカイには我慢できなかった。
いつも自分の行動や考えを見ぬいているソル――――…。見抜いているというか、いつも見抜かれてしまうのがカイは悔しかった。
「何だ、そのツラァ?辛気臭い目で見てんじゃねぇよ」
「うるさい!だまれ!」
カイはそう叫ぶと剣をまた振りかざし、ソルの服を切り刻んだ。
元々いつもの服ではなく、囚人服のようなものを着せられていて、それはカイの剣によって簡単に全て剥ぎ取られてしまうのであった。
「テメェ…何しやがるっ…!」
「君のような野蛮な人間には服なんて無用なんだよ。」
そう言うとカイはソルに蹴りを入れ、突き飛ばした。
枷によって力の出ないソルは呆気なく突き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
壁に叩きつけられ、起きあがれないソルをカイはまた蹴り、体を転がすと家畜のように四つんばいにし立てた。
そして自分が持ってきていた明かりをつけて、わざとソルを照らし出した。
「ははは。無様な姿だね、ソル。君の大事な部分が丸見えだよ」
カイはソルの顔に自分の顔を近づけ、ムリヤリ何かを飲ませた。
「!!なっ、何のませっ……!?」
「即効性のしびれ薬だよ。飲んだ瞬間に効いてくるはずだ」
「う…ぁ…っ…かっ、体が…」
「もう動かないだろう?辛うじて話せる程度なはずだよ」
「クソッ…、何しやが…る…」
ソルは苦しそうに話す。カイはそれを余裕の表情で見下している。
いつもそうだった。カイは幾らソルと勝負をしても勝つことができない。負けて苦しむカイをソルはいつも余裕の表情で見下していた。
「何するかは、今から楽しみにしててくれ。」

・・・・続く・・・・

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